空蝉
先に口を開いたのは、悠生の方。


「俺ら、別れたんじゃなかった? なのに、今更、何の用?」


冷たい言い方で問われた。

が、そんなことではくじけない。



「悠生の口から、悠生の本当の気持ちを、ちゃんと聞きたくて」

「……え?」

「ごめんね。アユちゃんから色々聞いちゃった」


途端に、悠生はバツが悪そうな顔になり、「あの馬鹿は」と、小さく毒づいた。



「ねぇ、ほんとに悠生は私のために進路変更してくれたの? 私が『別れたい』って言っても何も言わなかったのは、自分が無力だと思ったからなの?」


悠生は顔をうつむかせた。

少しの沈黙が訪れて、でも、「あー、もう!」と、頭を掻いた悠生は、



「そうだよ。その通りだよ」


と、諦めたのか、開き直ったように言った。

暗がりでもはっきりとわかるほど、悠生の顔は真っ赤だった。



「俺はケイの傍にいてやることしかできない。でも、ほんとはかっこつけてるけど、何の力もなくて。大人じゃないから、何もしてやれない」

「………」

「ケイが泣きながら『どうしたらいいの?』って聞いてきた時だって、俺は何も答えられなかった。だって、俺はここから連れ去ってやることもできないから」

「………」

「ケイはそんな俺に愛想尽かしたんだと思った。だから、それでケイが別れたいと思ったなら仕方ない、って」


胸に熱いものが込み上げてくる。

息を吐いた悠生は、



「ずっと、恥ずかしくて言えなかったけど、多分、俺の方がケイのこと好きだと思う」


悠生の視線が、ケイを捕らえる。



「ほんとは中学1年の頃からケイのこと知ってた。2年で同じクラスになれたことは奇跡だったけど、隣の席になれたのは偶然じゃなくてわざとだよ」

「え?」
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