空蝉
きょとんとするケイ。

しかし、悠生の目は真っ直ぐだから、嘘のようにも思えなくて。



「……中学1年から私のこと知ってたって?」

「ケイ、中学の頃、テニス部だったろ? コートはサッカー部が使ってるグラウンドの隣だった」

「あ……」

「ケイはどんな時でも一生懸命だった。先輩に怒られても、くじけずに頑張ってた。ボール拾いながら笑ってた」

「………」

「俺、練習がきつすぎて部活辞めようと思ってたことあったんだ。サッカーのことだって嫌いになりかけてた。でもそんなケイを見て、すごい励まされた。俺も頑張らなきゃって思わされた」


知らなかった。



「同じクラスになれてからは、ケイに話し掛けてもらえるように努力した。ケイが告白してくれて、すごい嬉しかった。でも、変に緊張してかっこつけすぎてて」


懐かしさに目を細める悠生。

ケイは愛しさが込み上げてくる。



「ありがとう、悠生。でも、私のために進路変更するっていうのは、間違ってると思うんだ」


かっこいいだとか、勉強ができてすごいだとか、そういうので好きになった。

でも、一番最初のきっかけは、休み時間に友達と遊びのようにサッカーをしながらも、ひたむきにボールを蹴っている悠生の横顔にときめいたからだ。



「悠生、サッカー好きでしょ? 私も悠生がサッカーしてるの好きだよ。大学生になったら止めちゃうなんてもったいないよ。悠生には、ずっとサッカーしててほしいの」

「ケイ……」

「私、もう大丈夫。お父さんとお母さんは離婚しちゃうけど、死ぬわけじゃないからいつでも会えるし。それに、夢もあるし、親友のアユちゃんもいる。悲観することなんて何もない」

「………」

「悠生と離れることになるのは寂しいけど、私、それ以上にサッカーしてる悠生が好きなの。サッカーしてる悠生が、一番かっこいいから」


顔を覆って脱力する悠生。

ケイはくしゃくしゃの顔で笑った。


そしたら、気が抜けたからなのか、ぐぅ、と腹が鳴った。



「色々と台無しだよ、お前」
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