空蝉
呆れ返る悠生。

ケイは舌を出して「だってお腹空いたんだもん」と言ったら、



「とりあえず、続きはすきやき食べながら話そうぜ。どうせ進路のことは、親にも聞いてもらわなきゃいけなし」

「え? 私も行っていいの?」

「当たり前だろ。俺は、仕方ないとは思ったけど、別れることに同意したわけじゃないんだから、ケイはまだ俺のカノジョだ」


屁理屈っぽいなと思った。

でも、すごく、すごーく、嬉しかった。


立ち上がった悠生はケイに「ほら」と左手を差し出した。



「帰るぞ」


手を繋いで、並んで歩く夜道。



「ねぇ、悠生。私のこと好き?」

「んー」

「好き?」

「普通」

「好きでしょ?」

「………」

「好きって言ってくれなきゃもう知らない」

「……好き」


ぼそりとだけ言われたが、ケイは確かに聞き洩らさなかった。

悠生に抱き付く。



「もう、悠生ってば。照れ屋なんだからぁ」

「おい、こら、やめろよ。歩けないだろ。ちょっ、馬鹿。調子に乗んな。って、うわっ」


ふたりですっ転んだ。

顔を見合わせて、同時に噴き出した。


4年も付き合っていると、マンネリしてしまっていていたが、悠生との、こんな他愛ないことが、どれほどかけがえのないものだったのかと、今になって思い出した。



「大好きだよ、悠生。遠距離になって浮気したら二度とサッカーできないようにしてやるんだから」


ケイの言葉に、悠生は困ったように肩をすくめ、「怖ぇよ」と言った。

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