空蝉


その日の夜遅く、アユからのメールが届いていた。



【色々あって翔と付き合うことにした】



ただそれだけの、絵文字ひとつない一文。

でも、これを打ちながらアユが照れている姿を想像し、ケイは笑いながら【おめでとう】の文字と共にハートマークで画面を埋め尽くした。


でも、少し考えた後、



【私もさっき悠生とすきやき食べたよ】


と、最後に付け加え、返信しておいた。




悠生は、当初予定していたサッカーが有名な大学に進路を戻した。

遠距離になるといっても、新幹線で1時間半だ。


楽しいことを想像しているうちに、あっという間に着く距離なのだから、何も問題はない。




父の新しい家は、ケイの今住んでる家からすぐ近くらしい。

いつでも通えるし、むしろ実家がふたつあるみたいで、そう考えると逆に嬉しくも思えた。


考え方ひとつで未来は明るいものになるのだと知った。




そんな日々を過ごしているうちに、再び中学時代の同級生から電話が掛かってきた。

「みんなで集まるっていう話、ケイはどうすることに決めた?」と。



「参加するよ。真理と一緒に」


真理の写真を持って行く。

だって私たちは、今も『親友』だから、一緒に行くのは当たり前だ。


電話を切り、腕まくりして、ケイは受験勉強を再開した。
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