空蝉
翔にカノジョができたのは、それからしばらくしてからのことだった。

別の学校の、同い年の子。


カイジはそれを見ておいてけぼりを食らったように感じたらしいが、ヨシキはただ単純に羨ましかった。


自分は真理しか愛せないのに。

なのに、翔は、当たり前のように、普通の子と、普通に付き合っているのだから。



「あーあ、つまんねぇの。翔のやつ、最近、付き合い悪ぃよなぁ。いきなり女優先とか、ありえねぇよ」


麻雀をしながら、ぐちぐち言うカイジ。



「ヨシキは?」

「え?」

「ヨシキは翔よりモテるのに、カノジョ作ろうとか思わないのか?」

「気になる子はいるけど、別に」

「マジで? 誰? うちの学校?」


前のめりに聞いてくるカイジに、曖昧な笑みだけを返すヨシキ。

しかし、勘のいいカイジは、少し考えるような素振りを見せた後、



「もしかして、真理ちゃん?」


すっと熱が引いた。


どうして知ってるの?

と、目を見開き、顔を青くしたヨシキに、



「やっぱりな」


カイジは肩をすくめた。



「翔が真理ちゃんの話をする度にいちいち反応してたし、もしかしたらそうじゃねぇかなぁ、とは思ったけど」


だからって、特に否定も肯定もしないカイジ。



ヨシキは焦った。

『変態オヤジ』と言った、あの時の翔の言葉が頭にこびり付いていて。


でも、同時に、もうひとりでは抱えきれなくて、誰かに吐き出したいとも思っていた。
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