空蝉
「俺は別に、小学生の子なら誰でもいいわけじゃない。でも、真理は小学生だし、翔になんて言えないし。だってこんなの異常だもん」


泣き出したヨシキを、カイジはちょっと引き気味に見ていた。

が、困ったように煙草を咥え、



「3つ下なんて、大人になったら普通じゃね? うちの親なんて10歳差だぞ?」

「カイジ……」

「まぁ、確かに翔は友達だし兄貴だし過保護すぎるから言えねぇのわかるけど、そんなに自分のこと全否定すんなよ。そういうのって苦しくね?」

「………」

「大体、何が正常で何が異常かって誰が決めんの? 翔も『俺は愛人の子だから異常なんだよ』とか言ってたけど、俺あんまそういうのわかんねぇ。卑屈になってるだけにしか見えねぇし」


ヨシキはカイジの言葉にわんわんと泣きながら、



「俺は真理のこと好きでいてもいいの?」

「知らねぇよ。そんなの俺が決めることじゃねぇし。自分がそうしたいと思ったんだったらそうしてれば? 心配しなくても翔には言わねぇよ」


少しだけ、でも確かに救われた。

翔とは違った部分だが、カイジはヨシキにとって本当に大切な仲間だと思った。


そうこうしているうちに、翔がやってきて、泣いているヨシキを見て「何事だ?」と怪訝な顔をしていたが、



「麻雀で俺に勝てなくて、ついにヨシキ、泣いちゃってさぁ」


と、カイジがフォローを入れてくれた。

翔は「お前ほんと、真理より泣き虫だもんなぁ」と笑いながらヨシキの頭を撫で、



「代われ、ヨシキ。俺がお前のかたきを討ってやる。勝負だ、カイジ」

「馬鹿。てめぇも負けて泣けよ、翔。そして俺に女を譲れ」

「はぁ? 死んどけ。つか、負けねぇし」


3人で笑う。


この関係を壊したくないと思う一方で、募り続ける真理への想い。

それでもただひたすらに、ヨシキは耐えていた。



早く大人になりたかった。
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