空蝉
ヨシキが高校1年になったということは、当たり前だが真理も中学1年になったということだ。


もう、真理は小学生ではなくなった。

それは本当に偶然だったのだが、真理に会い、真理が中学の制服を着ているのを見て、ヨシキの中の罪悪感は少しだけ薄まったような気がする。



それにしても、ちょっと避けている間に、真理はずいぶんと大人びた顔になっていた。



「何か、よっちゃんと会うの、すごい久しぶりだよね。昔と違って、全然、家に遊びに来てくれないんだもん。私、寂しかったな」


伏し目がちに、真理は言う。

ヨシキは息もできないほどの胸の苦しさに襲われた。



「私はよっちゃんのこと好きなのに、よっちゃんは私なんて子供だから興味ない?」

「何言ってんの」


笑って誤魔化そうとしたが、顔は多分、引き攣っていた。

真理の目は、翔と同じで真っ直ぐだった。



「私は、あの頃から、今でもずっと、よっちゃんしか見てないよ」


嬉しさよりも先に、戸惑いの方が大きかった。

これまで我慢していたタガが外れそうで怖かった。



「お兄ちゃんは中学の頃から、お酒飲んで、煙草吸って、カノジョだって作ってた。だったら、私だっていいんじゃないの?」

「………」

「よっちゃん、好きな人いる? いないなら私をよっちゃんのカノジョにしてよ。私以上によっちゃんを好きな人なんていないよ」


俺だって真理が欲しいよ。

と、喉元まで出掛かった言葉をどうにか飲み込み、



「真理はただ、そういう年頃だから、そう思ってるだけだよ。恋に恋してるだけ。ずっと身近にいた他人の男に、ただ憧れて、それを『好き』と勘違いしてるだけなんだよ」


喉の奥が焼け付いてひりひりする。

真理の傷ついた顔から、ヨシキは目を逸らした。



「大人になりなよ、真理」
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