空蝉
言いながら、真理を傷つけている反面、真理よりもっと傷ついている自分がいる。

すべてが突然過ぎて、もう、色んなことがぐちゃぐちゃだった。



「大人になって、それでもまだ、俺のことがほんとに好きだっていうなら、その時またおいで」


それが真理のためであり、俺のためだ。

ヨシキは必死で自分に言い聞かせ、どうにか笑みのまま、その場を去った。


しかし、家に辿り着いたところで、そのままうずくまって、込み上げてきた嗚咽を押し殺した。




翔とは違って、俺と真理は何がいけないの?

どうして気持ちを否定することがお互いのためなの?


自分で真理に言っておいて、後悔や悲しさしか残されなかった。




世間に認められないことだ。

じゃあ、世間って何?



誰も俺たちを認めてくれない。

俺たちは誰かに認めてもらわなきゃいけないの?



翔に嫌われるのが怖い。

翔にはもう俺より大切な人がいるんだから、そんなやつ捨ててでも、真理を選べばいいだろ?



真理を悲しませたくない。

真理はそれでも俺といることを望んでるんじゃないの?



愛してるんだよ。

愛してるからこそだろ?




頭の中で、白いのと黒いのが、ヨシキに交互にささやき続ける。



「真理……」


おえおえと吐きながら、ヨシキは倒れた。

いくら真理が中学生になったからといって、ヨシキ自身がまだ臆病すぎて、その背徳に耐えられなかったのだ。
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