空蝉
真理が顔を上げる。

触れる唇。


それは、想像していたよりずっと、やわらかくて、あたたかくて、優しかった。



「ほんとは俺の方が好きだったよ、真理のこと。自分が自分じゃなくなりそうなほど、愛してた」

「知ってたよ。よっちゃんは、いつも私を見てたでしょ。物欲しそうな、でも色っぽい目で。私、それに気付く度にドキドキしてたよ」

「だって、真理のことが欲しくてたまらなかったから」


何度も何度も、角度を変えてキスを繰り返す。



「欲しいならあげるよ。よっちゃんになら、私のすべてを、いくらでも」


確かに自暴自棄だった。

でも、それ以上に、真理をもうこの腕の中から離したくはなかった。


いつか、翔は『真理に変なことするやつ殺すし』と言っていたが、もう関係ない。


真理は俺のだ。

俺だけの真理だ。




真理の体を冷たいフローリングに倒し、ふたり、裸になって、むさぼり合う。

ずっと頭の中で汚していただけだった真理を、今、現実に、この手で犯している快楽は、とにかく異常なものだった。


初めての痛みに苦悶する真理の顔を見て、さらなる愛しさと欲望が生まれた。


真理は、苦しそうな顔をしながらも、ヨシキを求めるように腕を伸ばしてきた。

誰に愛されていなくても、真理が俺を愛してくれるなら、それでいい。




言葉にできなかったものを、ヨシキは文字通り、真理の中に吐き出した。




行為の後、ふたりでひとつの毛布にくるまり、ヨシキは真理を背中から抱き締めた。

「真理」、「痛かった?」、「優しくできなくてごめんね」、「愛してるよ」、「ずっと俺だけを見ててね」。


ささやいて、笑って、キスをして。


世界中でふたりっきりだとさえ錯覚していたのかもしれない。

だけど、それならそれでいいと、本気で思った。
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