空蝉
「真理と付き合うことになった」


カイジにだけは言っておいた。

でも、カイジは「ふうん」と言うだけで、特に何の反応も示さなかった。




学校は辞めた。

担任は尽力してくれたし、泣いて止めてくれる子もいたが、ヨシキ自身が学校へ行くことにそこまでの執着がなかったから。


翔もカイジも、だからって今までと何も変わらなかった。


同情も偏見もされなかったし、家はすぐ近くなのだから、夜は普通に一緒に遊んだ。

最初は母がいなくなってあれほど悲しかったのに、慣れてみれば気楽なものだったのだ。




仕事は、翔の腹違いの兄である充が紹介してれた。

美容師のアシスタントだ。


特にそういう業界に興味はなかったが、自分の力で稼げることや、仕事を与えられて求められることは、素直に喜びだった。




真理とは、人知れず、ヨシキの家で密会を重ねた。

翔にだけは知られないようにしたいとかたくなだったのは、ヨシキよりも真理の方だった。



「お兄ちゃんは絶対に怒るし、別れさせられる」、

「よっちゃんと、もう二度と会わせてもらえなくなるかもしれない」、


「だから、そうなるくらいなら、秘密にしてた方がみんなが幸せでいられるよ」と。



真理がそうしたいなら、好きなようにさせてあげようと思った。

ヨシキには真理がすべてで、他は付録のようなものだ。


愛を重ね、ふたりで狭い部屋の中で永遠を望む度、何かが歪んでいく。



「私、高校には行かない。16歳になったらよっちゃんと結婚して、よっちゃんの家族になる」


ふたりには、それがいいことなのか悪いことなのかの判別さえ、もうつかなくなっていた。
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