空蝉
あと2年待てば真理と結婚できる。

ヨシキは本気でそう思うようになった。


ふたりで待つ2年など、あれほどひとりで耐えた期間に比べたら、まばたきするように過ぎる時間だから、と。




しかし、転機は突然やってきた。

その年の夏。


ヨシキが働く美容院の店長は、にやにやしながら言った。



「お前、一次審査に合格したぞ」

「はい?」


何の話かわからなかった。

怪訝な顔をするヨシキに、店長はやっぱりにやにやとしたまま、



「芸能事務所のだよ。内緒だったけど、書類送ったら、見事に合格したんだ。面接にきてくれってさ。ほら」


渡された封筒の中には、モデルがどうのとか将来はスターだとか書かれていた。



ヨシキはよく、店の広告写真のためにカットモデルをやらされていた。

写真なんて嫌いだったが、自分は一番下っ端で、それが仕事の一環であり、断ってクビにされたら困ると思い、しぶしぶ引き受けていたのだが。


その時ついでに撮られた写真が、まさかこんな形で使われようとは。



「俺、そんなのしたくないです。自分の顔なんてほんとは大嫌いだし。それなのにモデルだなんて」

「なぁ、ヨシキ」


たしなめるように言う店長。



「こんなすげぇこと、そうそうねぇぞ? 芸能人になれるかもしれねぇんだぞ? 顔だって何だって、持って生まれた才能のひとつだ」

「でも!」

「受けるだけ受けてみてくれよ。もうみんなに言っちまったし、俺の顔を潰さないでくれ。なぁ?」


合格したら自分を売ることを強要される。

でも、不合格だったらみんなのいい笑い者にされる。


どちらにしたってヨシキの本望ではないが、それでも店長に押し切られる形で「はい」と言うしかなかった。
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