空蝉
新幹線で約2時間。
ヨシキはそのまま真っ直ぐ冴子の家に向かった。
「あら、また来たの? いらっしゃいっていうよりは、おかえりね」
冴子はいつも突然現れるヨシキに嫌な顔ひとつせず、部屋に迎え入れてくれる。
ヨシキには、当時まだ未成年だったヨシキのために事務所が用意してくれた部屋があり、今も荷物はそこにあるけれど、ヨシキはほとんどそこで暮らしてはいない。
「ご飯ある? お腹空いちゃった」
ヨシキは冴子の部屋に入り浸っている。
アパレル会社を経営する冴子とはもう、2年以上の付き合いだ。
別に付き合っているとかではなく、ヨシキはほとんどヒモに近い。
冴子は40目前らしいが、そうは見えない美しさがあった。
「開口一番にご飯の催促?」
「あれ? 怒った?」
冴子の髪を梳いてやる。
「じゃあ、先にベッドに行って、冴子さんを味わってからにするよ」
くちづけをする。
めんどくさいという思いを押し込め、ヨシキは笑みを向けた。
ヨシキにも、真理を忘れようとしていた頃があった。
忘れるべきなのだと思っていた頃が。
そんな頃に出会い、なし崩し的に一夜を共にしたのが、冴子だった。
誰でもよかった。
でも、冴子を抱いてわかったのは、真理以外はダメだということ。