空蝉
イケなかったのだ。



それから実験的に冴子以外にも何人も試したが、結果は同じだった。

触られれば反応するけれど、途中で萎える。


萎えるから、イッたふりをしているが、ゴムをつけていればばれない。


自分でしたらできるのに、他人と交わると、途端にできなくなる。

それでも義務的に、射精すらできないセックスを繰り返すのは、ひとりで過ごす夜が怖いからだろう。




冴子は夜の営みを求めてくる以外は、楽なものだった。




衣食住の他に、たまに小遣いと称して金をくれるし、何の干渉もしてこない。

冴子は、若くて従順な見た目のいい男を飼っている自分に酔い、そしてそれをステータスにしている。


利害関係の上に成り立っているのは、お互い様だ。



「明日の予定は? 暇だったら買い物に付き合ってほしいんだけど」

「撮影。だから、朝6時に起こして」


行為の終わりに、冴子の頬にキスをする。

冴子は肩をすくめて「私はあなたのお母さんじゃないのよ」と呆れていた。


ふと、母と冴子は顔が似ている気がしたが、でもあまりよく思い出せなかった。


あれから母は一度として連絡を寄越してきたことはなく、ヨシキも探したいと思ったことすらない。

コンビニや本屋に並んでいる息子の顔を見るのはどういう心境だろうかと想像したが、でもよくよく考えてみれば、母が自分の顔を覚えてくれているかどうかすら定かではないため、ヨシキは馬鹿な考えだったなと思い直した。



「俺の母親は、俺を朝起こしてくれるような人じゃなかったけどね」


すべてを――息子さえも捨てた母。


男と逃げて、母は今、幸せだろうか。

俺もあの時、真理と逃げていたら、と、今更なことが頭をよぎった。



後悔だらけの渦の中。

< 189 / 227 >

この作品をシェア

pagetop