空蝉
ヨシキの心は、5年経った今も、凍てついたままだ。
しかし、世間は意に反し、ヨシキを少しばかり有名にした。
「よっしー、顎上げて。あ、いいね。その顔、もっとちょうだい。次は伏し目がちな感じで。うん、そうそう」
パシャパシャと写真が撮られる。
白いレフ板の所為で余計、目がちかちかする。
「はい、おっけー。ちょっと休憩しよ」
ヨシキは息をつき、椅子に座って水を飲んだ。
「ヨシキ、ヨシキ」
マネージャーが近付いてくる。
何でいるのかと思ったら、
「いい話があるんだよ」
にやにやにやにや。
嫌な予感のするヨシキだったが、
「今度ね、深夜枠のバラエティーの出演が決まったんだよ。すごいでしょ。社長も大喜びだよ」
「えー?」
ヨシキはあからさまに口を尖らせた。
社長のプランでは、ヨシキを、まずは雑誌のモデルとして名を広めさせ、その後、テレビやドラマなどで活躍するようなタレントにさせたいらしい。
そのために事務所のみんなが頑張ってくれているのは知っているが、ヨシキとしては、これ以上、世間に知られたくはなかった。
「俺、もっとちっちゃい仕事がいい。フリーペーパーとか。それなのに、テレビなんて」
「何を言っているんだい。なりたくてもなれない人もいるんだよ。ヨシキは望まれているんだよ。嫌だなんて言ったらバチが当たるよ」
バチが当たったら俺は死ねる?
言い掛けた言葉を飲み込んだ。
マネージャーは身振り手振りで、