空蝉
「ヨシキは顔が綺麗だから、男性紙に出てても女性ファンが多いでしょ。でも、テレビに出たら、もっとファンが増えるよ」

「………」

「ヨシキはどんどん有名になっていくんだよ。そのための、今回のテレビ出演だ。頑張らなきゃいけないよ」


ほんとはこんなところにだっていたくはないのに。

俺はもう十分、頑張ってるのに。


ヨシキは何とも言えず、煙草を咥えたのだが、



「こら、そんなの吸っちゃダメって何度も言ってるじゃないか。歯が黄色くなるし、イメージも悪くなる。健康にだってよくないよ。禁煙しなよ」


指に挟んでいた煙草を奪われ、さらに箱まで潰されてゴミに捨てられた。


マネージャーに悪気はなく、むしろ自分のためを思って言ってくれているのはわかってはいるのだけれど。

自分で選んだことだとはいえ、さすがに息が詰まる。



「次、午後からだよね? 俺ちょっと外に出てくるね」


逃げるようにスタジオを出た。


近くにコンビニがあるから、新しい煙草を買いに行こう。

そう思って廊下を歩いていたら、



「きゃっ!」


角を曲がった瞬間、何かにぶつかった。


目の前には、尻餅をついている女の子と、床に散らばった服の山。

隣のスタジオで何か撮影しているのは知っていたし、多分、それの衣装さんかアシスタントさんだろうけど。



「ごめんね。大丈夫? どこも怪我してない? 俺の不注意で」

「いえ、こちらこそすいませんでした」


女の子はぶっきら棒に言ってすぐに立ち上がり、服を集める。


ヨシキもそれを手伝った。

これって冴子さんのブランドのやつだなと、服のタグを見ていたら、



「あの」
< 191 / 227 >

この作品をシェア

pagetop