空蝉
撮影が終わり、悠馬に「飯行こうぜ」と誘われた。
居酒屋で飲んでいたのだが、悪酔いしたふたりは、そのままクラブに移動した。
クラブに着いて早々に、悠馬が怪しい外国人と英語で談笑を交わし、何かの小箱を受け取っていた。
「悠馬って英語できるんだ?」
「俺、これでも一応、帰国子女。7歳までアメリカいたし」
「うっそ」
「よっしーは顔だけ見ればハーフっぽいのに、英語のひとつもできねぇの?」
その問いには、曖昧な笑みだけを返しておく。
話を変えたくて、ヨシキは悠馬の手の中の小箱を指差し、「それ何?」と聞いた。
悠馬は急ににやにやしながら、
「トリップできるぜ」
と、言った。
パッケージだけ見れば、外国の煙草みたいだ。
しかし、見せられた中身は、煙草のような紙に包まれた、ハーブと呼ばれる、いわゆる乾燥大麻だった。
「安心しろ。合法だ。吸うか?」
似たようなものは何度か吸ったことがあるため、今更、特に抵抗はない。
ヨシキはそれを受け取り、口に咥えて火をつけた。
煙を肺の奥まで吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
悠馬も同じようにし、笑いながら、「これが一番のスキャンダルだなぁ」と言った。
「ほんとにね」
はっきりと喋ることができたのかどうかはわからない。
全身から力が抜け、妙な気だるさだけが残される。
思考力が削ぎ落とされ、ふわふわとして、地に足がついていないような感覚だった。
このまま空を飛べたらなら、真理のところまで行けるだろうかと、ヨシキはぼうっと宙を仰いだ。