空蝉
美雨のアパートは、本当にヨシキのマンションから近かった。
美雨は玄関先でヨシキの入室を拒んだが、そんなことを言っている場合じゃなさそうだったので、半ば強引に室内に入った。
女のひとり暮らしという感じがありありと見て取れる、ワンルーム。
ヨシキは美雨をベッドに寝かせた。
「熱、何度ある? 病院は行った? 薬飲んだ?」
美雨のひたいに冷却シートを貼ってやり、清涼飲料水を飲ませてやった。
美雨は少し落ち着いたのか、息を吐き、「すいませんでした」と言った。
「ねぇ、どうしていつも謝ってるの? きみは何も悪いことしてないでしょ」
「あなたの方こそいつも謝ってばかりじゃないですか」
ぶっきら棒に言われたが、確かにそうだなとヨシキは思い、笑ってしまった。
「俺、きみが眠れるまでここにいてあげるよ」
「え?」
「熱がある時にひとりだと寂しいでしょ。俺も小さい頃からずっとひとりだから、わかるんだ。だから、ね?」
ヨシキはベッドの横に腰を下ろした。
「子守唄でも歌ってあげようか?」と、おどけたように付け加えたのだが、美雨はそれには答えず、
「私、自分のテリトリーの中に他人がいるの、苦手なんです」
美雨は暗に、だから早く帰ってくれ、と言いたいのだろうか。
それとももっと別の理由があるからなのか。
美雨の部屋のチェストの上には、写真立てがある。
写真の中では、美雨と、友達らしき女の子が、顔を寄せ合って笑いながらピースして写っている。
自分のテリトリーの中に他人がいるのが苦手だと言いながら、その写真だけは異質に思えた。
「あの子は?」
ヨシキが写真立てを指を差して聞いてみたら、