空蝉
「親友でした」


美雨はかすれた声で言った。



「過去形?」

「死んだんです、彼女。高校の時に」


ヨシキは思わず「死んだ」と反芻させてしまった。

真理の顔が脳裏をよぎる。



「どうして」


ヨシキは言い掛けたが、美雨は目を瞑った。

それ以上は聞くなという意味なのか、それとも熱が上がってしんどいのか。


どちらにしろ、興味本位で触れていい話題ではないだろうなと思い直した。



美雨が寝息を立て始めたのを確認し、ヨシキは立ち上がった。



その辺にあった広告の裏に、【何かあったら電話してね】と、携帯の番号を添えて書き残し、部屋を出た。


美雨も過去に大切な人を失ったことがある。

ヨシキは美雨に対して似たようなシンパシーを感じていたのかもしれない。




だからどうしたということもないのだけれど。




自分のマンションに戻ったヨシキは、そこで初めて、酒を買い忘れたことに気付いた。

が、今更コンビニまで行くのも面倒だ。


ヨシキは部屋の引き出しから、少し前に悠馬に分けてもらった乾燥大麻の包みを取り出した。


早く死にたかった。

なのに、自殺する勇気すらないから、ヨシキはこんな馬鹿みたいなことを繰り返す。



目を瞑ると、真理は夢の中でだけ現れてくれ、たとえそれが幻影であるとわかっていても、ヨシキはその時だけ心の底から笑えるのだ。



夢の中に沈んでしまえたらいいのにと思う。

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