空蝉
しかし、翔に迷惑を掛けたくないという思いも、康介のことが怖いという思いも、未だ心にくすぶっている。

顔をうつむかせるアユに、翔は、



「荷物は?」

「え? あ……」


康介の部屋だ。

財布も、携帯も、すべてバッグの中だったと、アユは今更思い出した。



「取りに行くぞ」

「えっ」

「俺に任せろって言ったろ? そいつ、どこに住んでる?」


言うなり、シフトをドライブに入れて車を発進させる翔。

強引とでも言おうか、なすがままのアユは、ぼそりと康介のアパートの場所を呟いた。


雨の中、車は康介のアパートへと向かう。


近付くごとに、アユの震えは増していく。

それでも、翔まで巻き込んでおいて、自分だけ逃げるということもできなかったから。



やがて車は、康介のアパートの下へと到着した。



「ねぇ、ほんとに行くの?」

「おー。お前は車で待ってればいいから。荷物だけでも俺が取り返してくるし」

「危ないよ」

「上等、上等」


翔はわざとなのか、アユに歯を見せて笑った。

アユは一度、大きく深呼吸をして、



「わ、私も行く」

「うん?」

「私のことだから、私も行く」


翔は少し考える素振りを見せた後、「わかった」と言った。

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