空蝉
「俺は迷惑なんて思ってないよ。むしろ、余計なことしたかなって、あれから反省して」


言い掛けたヨシキを、美雨はまた「あの」と言い、遮った。



「今から会えませんか?」

「え?」

「あ、お忙しいならいいんですけど。もし少しでもお時間があるようでしたら」


どうせ、帰っても酒を飲んで寝るだけだ。

ヨシキはふたつ返事で「いいよ」と言った。


10分後に近くの公園で待ち合わせることを決め、電話を切った。



ヨシキは自宅マンションの方へと向けていた足を反転させる。



そこから3分も歩かないうちに、約束の公園に辿り着き、ヨシキはベンチに座って宙を仰いだ。


月は半分以上が雲間に隠されている。

ぼうっとそれを見上げていたら、美雨がやってきた。



「早いね」

「あなたの方こそ」


電話してからまだ5分ほどしか経っていない。

何だかおかしくなって、ふたりで少し笑った。



「で、どうしたの? こんな夜の公園にひとりで男を呼び出すなんて危険だよ」


おどけて言ってみたが、美雨はそれには答えず、



「これ」


と、紙袋を差し出してきた。

ヨシキは「何?」と首をかしげながら、それを受け取った。


中には、細いストライプ入りのシャツが。



「先日のお礼です」

「えっ」

「何がお好きなのかわからなかったので、使えそうなものを適当に。あ、いらなければそのまま捨てていただければいいんですが」
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