空蝉


小一時間ほど、3人でつまらないことを話しながら、酒を飲んだ。

それから、エミは夜9時を過ぎた頃、「友達と飲み会の約束があるから」と言い、出て行った。


充とふたりっきりになり、急に沈黙が訪れた。



「今日、悪かったな。どうせ、エミに無理やり連れて来られたんだろ? あいつも悪気があるわけじゃねぇんだけど」

「いいよ。俺も用があったわけじゃないし、3人で飲めて嬉しかったよ」


煙草を咥えた充は、



「何かあったか?」

「えっ」

「お前がこっちに戻ってくるのは、大抵、向こうで何かあったからだろ。それくらい誰でもわかるっつーの」


敵わないなと思った。

それでもヨシキが「どうかな」とはぐらかすと、充もそれ以上は追及してこない。


翔の、真理の、腹違いだけど兄の充。



「ねぇ、充さん」

「ん?」

「充さんは、どうして今でも俺に優しくしてくれるの? みんなもだけどさ。俺と付き合ってた所為で、真理は死んだんだよ?」

「………」

「それって俺が真理を殺したも同然でしょ? なのに、どうして俺を恨まないの? 憎んでくれないの?」


目の淵が赤くなる。

ヨシキはそれでも震える唇を噛み締めた。


充は宙に向かって煙を吐き出しながら、



「お前も、俺らも、みんな同じだ。被害者であり加害者でもあるんだよ。だから誰かの所為だとか、誰かが悪いだなんて、俺は思えねぇよ」


恨まれたいし、憎まれたかった。

なのに、それさえしてもらえない。



「じゃあ、俺はどうすればいいの」
< 209 / 227 >

この作品をシェア

pagetop