空蝉
小一時間ほど、3人でつまらないことを話しながら、酒を飲んだ。
それから、エミは夜9時を過ぎた頃、「友達と飲み会の約束があるから」と言い、出て行った。
充とふたりっきりになり、急に沈黙が訪れた。
「今日、悪かったな。どうせ、エミに無理やり連れて来られたんだろ? あいつも悪気があるわけじゃねぇんだけど」
「いいよ。俺も用があったわけじゃないし、3人で飲めて嬉しかったよ」
煙草を咥えた充は、
「何かあったか?」
「えっ」
「お前がこっちに戻ってくるのは、大抵、向こうで何かあったからだろ。それくらい誰でもわかるっつーの」
敵わないなと思った。
それでもヨシキが「どうかな」とはぐらかすと、充もそれ以上は追及してこない。
翔の、真理の、腹違いだけど兄の充。
「ねぇ、充さん」
「ん?」
「充さんは、どうして今でも俺に優しくしてくれるの? みんなもだけどさ。俺と付き合ってた所為で、真理は死んだんだよ?」
「………」
「それって俺が真理を殺したも同然でしょ? なのに、どうして俺を恨まないの? 憎んでくれないの?」
目の淵が赤くなる。
ヨシキはそれでも震える唇を噛み締めた。
充は宙に向かって煙を吐き出しながら、
「お前も、俺らも、みんな同じだ。被害者であり加害者でもあるんだよ。だから誰かの所為だとか、誰かが悪いだなんて、俺は思えねぇよ」
恨まれたいし、憎まれたかった。
なのに、それさえしてもらえない。
「じゃあ、俺はどうすればいいの」