空蝉


ふたりでギシギシと鳴る鉄階段をのぼる。


203号室の前で、アユと翔は顔を見合わせた。

アユが震える手で拳を作ると、翔はいきなり、ノックもせずにドアを開けた。



「おっじゃまー」


緊張感のないことを言って、翔は雨の中を歩いた足で、土足のまま、ずかずかと康介の部屋に足を踏み入れていく。

布団で寝ていたらしい康介は、半身を起こし、驚いたように目を見開いていた。



「やーっぱり、てめぇだったか。『康介』って名前を聞いた時から、そうじゃねぇかとは思ってたけど」

「な、何で翔さんが!」


ふたりは顔見知りだった。

そんな事実にアユが驚きを隠せないままでいたら、



「どうして翔さんが、アユといるんすか?」


いぶかしげな顔で、康介はよろよろと立ち上がった。



「アユ! てめぇ、やっぱり浮気してやがったのか!」


掴み掛かってくる勢いの康介に、アユはびくりと肩を上げた。

が、それを制したのは翔だった。



「うるせぇ。騒ぐな。殺すぞ」


低く吐き捨て、康介の腕を掴む。

翔の目は、ひどく冷たいものだった。


康介は、一瞬、戸惑うような顔をしたが、



「い、いくら翔さんだからって、人の女に手出していいと思ってんすか?」

「女殴るやつに言われたくねぇよ」


刹那、ガッ、と鈍い音が響き、それと同時に康介の体が吹っ飛んだ。

アユは驚いて目をつむる。
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