空蝉
吐き出すように絞り出した。

充は少しの沈黙を作った後、



「お前自身はどうしたい?」

「……え?」

「自分の生き方を人の判断に委ねるなよ。誰かがこう言ったからこうします、ってか? 馬鹿じゃねぇの」

「………」

「もうそういうのやめろよ。いい加減、楽になっていいんだぜ、ヨシキ」

「楽に……」


その時、充の携帯が鳴った。

ディスプレイを確認した充は、怪訝な顔で通話ボタンを押す。



「はい。あ? 喧嘩だぁ? そんなもん俺が知るかっつーの。いちいち電話してくんなよ。って、おい!」


舌打ちした充は、



「悪ぃ。後輩が駅前で喧嘩してんだってよ。すげぇ騒ぎになってるらしいから、めんどくせぇけどちょっと行ってくるわ。すぐ戻るから待ってろ」


言い捨てて、出て行ってしまった。

ヨシキはぼうっとその後ろ姿を見送った。




『自分ひとりだけ楽になろうとしてんじゃねぇよ』と、あの日、翔は言った。

でも、5年経った今、翔の腹違いの兄が『楽になっていい』と、言ってくれた。


やっと死ぬことを許されたのだと思った。




ヨシキは薄笑いを浮かべながら、ポケットから取り出した、乾燥大麻の最後のひとつを咥えて火をつけた。

煙をゆっくり吸い込み吐き出すと、意識が沈んでいく。


ヨシキはそのまま、のそのそと床を這うように進み、ガスコンロのスイッチをひねった。


ガスが漏れる。

ひどい匂いがするが、トリップしているヨシキには気にならない。
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