空蝉
相手の子は、10代だろうか、ギャルっぽい見た目だが、目鼻立ちがはっきりとした猫っぽい顔をしている。

プリクラの中で、翔は彼女を守るように後ろから抱き締めて笑っていた。



「アユな、前の男にぶん殴られてたりとかしてて。初めのうちは、俺が髪触ろうとしただけで青い顔して、パニックになって泣いてた。トラウマってやつ?」

「何それ、ひどいね」

「俺は、『俺がお前のこと好きだからそんなの関係ねぇし、お前が嫌なら大丈夫になるまで待つよ』って言ったんだけど、あいつ、『翔のこと好きだけど、こんなんで付き合えない』、『翔の迷惑になりたくない』、『翔にまで辛い思いをさせて我慢させたくない』って言ってて」

「………」

「でも、アユ、ちゃんと生きてんの。自分なりに、前を向こうとしてんの。それ見てたら、俺も真面目になんなきゃと思うじゃん?」

「うん」

「アユはさ、不器用だからすぐ人と壁作っちゃうし、生きるのも下手だけど、根は誰より優しくてあったかいやつなんだよ。俺はそういうあいつを好きになったし、今度こそ愛想尽かされて捨てられたくねぇじゃんか」


ヨシキは改めてプリクラに目をやった。



「じゃあ、この子のおかげだね。翔が変わったから、俺も今ここでこうしてる」

「俺の女だ。惚れんなよ?」

「どうかな」

「おいおい、勘弁してくれよ。前は兄貴に奪われて、今度はお前に奪われたら、俺マジで死ねる気がするし。しかもお前は過去に俺の妹を奪ったという前科もあるからな」


ヨシキは笑ってしまった。

プリクラを翔に返しながら、



「冗談だよ。俺は翔の幸せが一番だから、それを壊したいなんて思わないよ」


翔は、何だかよくわからない顔をする。



「ヨシキも変わったよな。お前、昔はそういうこと言うキャラじゃなかった。つか、ちょっと嫌なやつになったよ」

「そうかも。これでもそれなりに、悪い大人たちに揉まれて生きてきたからね」


翔は「ふうん」と言いながら、煙草を咥えた。

そして、煙を宙へと吐き出しながら、



「嫌ならいつでも戻ってこいよ。無理して続けるような仕事でもねぇだろ」

「うん。まぁ、ほんとにダメだと思ったら逃げ帰ってくるけど、まだもうちょっとだけ。俺がいないと困るって言ってくれてる人もいるし」
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