空蝉
2月下旬。
翔との約束の春まで、あともう少し。
その日、ヨシキは仕事を終えていつものように、飲み物を買うために家の近くのコンビニに寄ろうとしていたら、
「……あ」
美雨と目が合い、足が止まった。
美雨は一瞬、気まずそうな顔をしたが、でもすぐにヨシキを無視して行こうとする。
「待って!」
気付けば声を上げていた。
「あ、えっと」
「もう二度と私に関わらないでくださいと言ったはずです」
「うん。でも、少しだけ、きみと話がしたい」
「私は話すことなんて何も」
「俺が話したいと思ってるの。いつかまた会えたら、きみに伝えておきたいことがあったから」
美雨はひどくと戸惑った顔をする。
目を伏せた美雨は、
「私の携帯の番号、知ってるでしょう? 何かあるなら電話してくだされば済むことじゃないんですか?」
「それじゃあ、おもしろくないじゃない。俺は偶然に賭けてたから。もしもまた会える奇跡があったなら、その時に言おうって」
ヨシキは息を吐く。
「きみはあの時、自分は人殺しだから俺とは違うって言った。でも、俺もほんとはきみと同じ、人殺しなんだ」
「……え?」
「俺の最愛の人は、俺と付き合ってた所為でいじめられて自殺した。彼女は俺の親友の妹だったから、もう色々と大変だったよ、あの頃は」
「………」
「親友も、仲間もみんな、俺が死ぬことさえ許してくれなかった。俺の所為なのに、責めてすらくれなかった。わかるでしょ? この辛さ」
美雨の手は震えていた。
ヨシキは「でも」と言う。