空蝉
そして、雨が小康状態になった、明け方近く。
「やっべぇ。眠すぎて死ぬ」
うつろな目で、大あくび。
翔は4本目のビールの途中で、ギブアップ宣言をしてしまった。
ちびちびと飲んでいたアユとは対照的に、翔は早いペースで飲み続けていたため、当然と言えば当然だろうけど。
「ちょっと、大丈夫?」
「んー? 余裕、余裕」
立ち上がった翔は、だけどもふらついている。
どこが『余裕』なんだか。
すっ転んで頭でも打ったらと思ったら、アユもさすがに手を貸さないわけにはいかない。
「もう、あんた全然真っ直ぐ歩けてないじゃん。寝室こっち? って、目開けて歩きなさいよ」
「うるせぇ」
すでに呂律がまわらなくなっているのに、頭は働いているのか、口だけは達者な翔。
呆れそうだったが、助けてもらった手前、蹴り飛ばすこともできない。
アユは翔に肩を貸し、どうにか寝室のドアを開けた。
翔はそのまま、いきなり、ダイブするようにベッドに突っ伏す形で倒れ込んだ。
「ちょっ、きゃあ!」
おかげで肩を貸していたアユも巻き添えだ。
顔が近い。
「痛い! 重い! 馬鹿! 酔っ払い!」
「わめくなよ。近所迷惑だろ」