空蝉
3
あれから、風の噂で康介がこの街からいなくなったと聞いた。
まさかと思ってアパートに行ってみたけれど、そこはすでにもぬけの殻だった。
翔がまた何かしたのか、それとも翔を恐れた康介が逃げたのか。
真相はわからないが、とにかくもう、康介はいなくなったのだ。
最初はそれでも怖かったアユだったが、次第に普通の生活を取り戻せるようになった。
そしてアユはバイトを辞めた。
元々の約束通り、新しいバイトの子が見つかったため、アユは無事に御役御免となったのだ。
仕事を覚えられ、仲よくなった子もいたので、少し寂しくもあったが、繁華街に行かない理由にはなった。
それからの日々は、夏休みの課題をやり、そのほかの時間はケイや友達と遊びまくった。
8月の、2週目の水曜日。
登校日。
と、言っても、3年生は強制的に模試を受けさせられるため、久しぶりにみんなに会えて嬉しいとかいう感慨はなかった。
昼を過ぎ、やっと帰宅を許された頃には、アユはもうふらふらだった。
ケイは「図書室で調べ物をするから残る」と言うので、悠生と一緒に駅まで行くことにした。
悠生は真っ黒に日焼けしていた。
「ほんと黒くなったよねぇ、悠生。別人みたいでちょっとおもしろいけど」
「部活してたしな」
その部活も、先日の試合をもって引退した悠生。
「でも、これからは勉強に専念するし、これ以上は焼けないと思う」
まだ賢くなりたいのか。
好き好んで勉強する人の気は知れないが、それでも自分には無理なことなので、アユは悠生を尊敬する気持ちにもなる。