空蝉


7月になった。

高校最後の夏休みまで、あと少し。


クラスメイトより一足先に自己推薦入試で短大に合格しているアユにとっては、出席日数を稼ぐためにのみ登校しているようなもので。



「アユちゃーん。数学のプリントやったぁ?」


親友であるケイの笑顔が眩しい。

いっそ、サングラスが欲しいとすら思うほどに。


アユは肩をすくめて頬杖をつき、



「私がそんなもん、やってると思う?」

「だよねぇ? アユちゃんが真面目に宿題やってた日には、天変地異が起きるよねぇ」


失礼な。

と、思ったけれど、確かに正しい。



「ケイは? やった?」

「まさかぁ。私だってやってないよー」


ケイは、なのに屈託なく笑っている。


人のことを言える立場ではないが、ほんとにのん気な子だ。

アユも思わず笑ってしまった。



「おい、こら。お前ら、何を偉そうに胸張って低レベルに喜び合ってんだよ」


顔を上げると、鬼のような形相の悠生が。

悠生は、猫を持ち上げるようにケイの首根っこを掴み、



「アユはまだいいとしても、ケイは別だろ。内申点だってあるのに、そんなんで受験どうするつもりだよ」

「ひゃー。やめてー。死んじゃうー」


叫ぶケイを、「馬鹿は死ななきゃ治らない」と、悠生は一蹴した。


相変わらず、仲がいいなと思う。

ふたりは中学2年の頃から付き合っているらしい。
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