空蝉
翔は言った。


「14で死ぬことを選ぶって、どんだけ辛いんだろうな」と。

そして、「生きてたら、お前と同い年だよ」とも。





翔に対して、私が――私なんかが、何を言えただろう。

何を言っても陳腐にしかならない気がして、アユは言葉も持てないままで。


車はただひたすらに、国道を真っ直ぐ進んでいた。





「おふくろは、真理の死の要因が自分にもあると思って、ショックで倒れて。で、それからすぐに、真理の後を追うように病気で死んだよ」


あの雨の日、夢うつつの中で『ひとりにすんなよ』と翔は言った。

孤独の辛さは、きっと、計り知れないものがあるのだろうなと、アユは思う。



「あの頃はほんとめちゃくちゃだった。高校辞めて、街で喧嘩ばっかしてた。そしたら、パクられて。まぁ、自業自得だし、俺の人生、別にどうなってもいいやって、本気で思ってた」

「………」

「けどさ、その時に助けてくれたのが、兄貴なんだよ。『兄貴』っつっても、本妻の子なんだけど。親父に掛け合ってくれたみたいで」

「……え?」

「兄貴には恩がある。憎んでしかるべきである愛人の子の俺を、ちゃんと弟として扱ってくれたから」


血の繋がりとは不思議なものだ。

たかが兄弟、されど兄弟。



「親父も真理が死んだことはそれなりに責任を感じてたみたいで、それからは、頼んでもねぇのに俺に金くれ続けてんの。義務感もあんのかもしれねぇけど」


あぁ、だから翔は、あんないいマンションに住んでて、こんないい車に乗ってて、『仕事はしてない』けど、『特に金には困ってない』と言ったのか。



「どうしてそんなことを私に言うの?」


やっと絞り出した言葉。

翔はこちらを一瞥してふっと力なく笑みを返し、



「わかんねぇけど、お前は俺を絶対に軽蔑しないと思ったから」
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