空蝉
今の話のどこをどう『軽蔑』しろと言うのか。

一番、苦しんでいるのは、翔自身なのに。


とはいえ、そんな話を聞かされたところで、だからどうしたのだと言うしかない。


私と翔は、友達ですらない関係なのに。

戸惑うアユをまた一瞥した翔は、



「俺、全部の女と手切ったよ」

「え?」

「そろそろ真面目になろうかと思ってさ。いつまでもこんなままじゃダメだし、俺も前に進まなきゃなぁ、って」


翔は、今度は無邪気な子供みたいに笑う。



「俺多分、お前のこと好きな気がする」


笑いながら言う翔に、アユはぽかんと間抜けに口を開けたまま。


『多分』とか、『気がする』とか。

こいつはどこまでが冗談で、どこからが本気なのか、まるでわからない。



「ちょっと待ってよ。どうしてそうなるの? わけわかんないんだけど」


こめかみを押さえて問うアユに、翔はやっぱり無邪気に笑いながら、



「俺もよくわかんねぇけど。考えてたみたら、俺、ずっと街でお前のこと探してたんだよな。無意識に目が動いてたっつーか」

「………」

「で、いつも、今日もいるな、って思ったら、何か嬉しくなってた。で、あの日のことで、もうお前の辛い顔とか見たくねぇって思ったんだ。な? これって恋ってやつじゃね?」


知るか。

呆れるアユをよそに、翔はテストの問題が解けた小学生みたいに目を輝かせている。



「だから、お前、俺と付き合えよ」


アユはいよいよ卒倒しそうだった。

『だから』の意味が、まるでわからない。



「たとえ、あんたのそれがほんとに『恋』だとしても、信用できない。あの日のことは感謝してるけど、それとこれは別だし」
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