空蝉
4
あの日、翔は、携帯の番号を交換することと引き換えに、アユを元の駅まで送ってくれた。
翔からのメールが届くようになったのは、それからだ。
1日に1,2回ほど、くだらない内容のそれが届き、仕方がないからアユも適当に返事を打つようにはしている。
別に好きになったとかではないけれど。
夏休みはつつがなく過ぎて行く。
それは、夏休みも残り10日を切った、ある日のことだった。
その日はケイと、勉強会と称してカフェに集まった。
もちろん勉強などそっちのけで、関係のない話に花が咲くわけだが。
「アユちゃんさぁ、カレシ作ればいいのにぃ。美人なのにもったいないと思うんだけどなぁ、私」
「別にいいよ、そんなの。興味ないし」
「またまたぁ。アユちゃん、いっつもそう言ってるけど、ほんとは好きな人いるんじゃないの?」
「何でそうなるのよ」
「だって、さっきから携帯ばっか気にしてるよー」
言われて驚いた。
アユは慌てて、テーブルの上に置いていた携帯を、バッグにしまった。
確かに、翔からメールが来るようになって以来、よく携帯を見るようにはなったけれど。
「そ、そんなんじゃないよ。時間を確認してただけで」
「腕時計してるのに、わざわざ携帯で?」
鋭すぎて、アユもさすがに答えに窮してしまった。
普段はおっとりしているケイだが、こと恋愛に関してだけは、やたらとアンテナを張り巡らせているらしい。
ケイは曖昧な顔しかできないアユに、前のめりに聞いてきた。
「誰からのメールを待ってるの?」
「べ、別に私は」
「いいじゃん、いいじゃん。言っちゃいなよー。悪いことしてるわけじゃないんだしぃ」