空蝉
生きるとか死ぬとか、俺にはまだよくわかんねぇ。
夜になり、仕事を終えたカイジは、疲弊した体を押して、自宅に戻った。
鍵が開いていた時点で嫌な予感がしたのだが、玄関に脱ぎ捨てられた靴を見て、やっぱりな、という気持ちと共に、げんなりした。
それでもリビングへと続くドアを開けたら、
「おかえり、カイジ。ご飯にする? それとも、あ・た・し?」
馬鹿なんじゃないのか、こいつは。
カイジは思わずこめかみを押さえ、
「なぁ、ヨシキ。頼むからそういうの、やめてくれ。誰かに聞かれたからマジで勘違いされるだろ」
なのに、ヨシキは悪びれる様子もなく、へらへらと笑っていた。
テーブルの上にはビールの缶が並んでいる。
またこいつは酔っ払ってんのか。
それでもカイジはなるべく冷静に、
「いつこっちに戻ってきた?」
「1時間くらい前かな。その足で、真っ直ぐここに」
モデルなどという職業柄、ヨシキはこの街を出ている。
が、いつもふらっと戻ってきては、当然のようにカイジの部屋に居つくのだ。
それを咎めれば、どこぞの女のところに宿を求めに行ってしまう。
ヨシキは糸の切れた風船と同じだ。
どこにも定住することなく、着の身着のまま、ただ無目的にその日を生きているだけ。
放っておいたらそのままどこかに消えてしまうのではないかと思ったら、カイジもついつい甘やかしてしまうのだ。
「翔には? 連絡したのか?」
ヨシキは顎先だけで首を振った。