空蝉
「電話したけど、出ないよ。まぁ、いつも、3回に1回くらいしか出てくれないけど。出たとしても、『忙しい』とか『今は無理』って言われるだけだし」


ほんと、あの馬鹿は。

カイジはまたこめかみを押さえた。


カイジのわかっている限り、ヨシキと翔は、もう半年以上、顔を合わせていないはずだ。


会ったところで気まずい空気にしかならないが、だからって避け続けてどうするんだ。

と、思うのは、やっぱり結局のことろ、俺が他人でしかないからなのかもしれないが。



何も言えないままでいたカイジに、ヨシキは、



「いいんだよ、別に。翔が俺を許すはずはないし、俺は許されたいとも思ってないから」


そんな悲しいことを言うなよ。

喉元まで出掛かった言葉を、カイジはどうにか飲み込んだ。


ヨシキは顔を覆う。



「真理に会いたいよ」


声を震わせ、ヨシキは言う。



「翔のためにも、俺が死ねばいいんだ。なのに、俺にはそんな勇気もないんだよ。真理のところに行きたいのに行けないまま、それでも生きてるなんて、最低だよね」


泣いているヨシキの頭を、カイジはただ黙って撫でてやることしかできなかった。



死ぬなよと言ってやったところで、ヨシキの気が紛れるわけではない。

死ねよと言ったとしても、それでは何ひとつ解決しない。


だから、結局のところ、カイジは何も言えないのだ。



「ヨシキ。飯食ったか? どっか食いに行くか?」


ヨシキはかぶりを振った。



ヨシキも、翔も、それぞれに辛いのだろうとは思う。

けど、まわりだって辛くて苦しいんだよ。


それでも、カイジは言いたいことのすべての飲み込み、「そっか」とだけ返した。

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