空蝉
短大に合格してるからって、別に私の未来はバラ色ってわけじゃないし。
そもそも、自分の人生にそこまでの期待なんて持ってないから、仮に合格が取り消しになったとしても、だからどうしたというだけだ。
親や教師の手前、勧められるままに最低限のこととして自己推薦入試を受けたら、どんな間違いがあったのか、合格してしまったというだけなのだから。
どうせ、私なんて――。
「さっきは悪かったよ」
どういうことを言われたのか、ケイに引き連れられて戻ってきた悠生は、バツが悪そうに言った。
「言い過ぎた。ちょっとイライラしてて」
完璧人間みたいな悠生でも、イライラしたりするのか。
と、変に感心している場合ではない。
「私の方こそ」
「はい、仲直り。ね?」
仲を取り持つように、ケイはいつものふにゃふにゃとした顔で笑う。
アユと悠生は、互いに諦めたように顔を見合わせた。
悠生は、今度は言いにくそうにしながらも、
「でも、話を蒸し返すようだけど、アユ、合格してるのはすごいことなんだから、それ大切にしろよ。心配してるのはほんとだから」
「うん。わかってる。ありがとね」
ここまで言われて、どうでもいいと言えるわけもなく、アユは耳障りのいい言葉だけを返しておいた。
つまらないだけの毎日。
翔もつまらないからちゃんと笑わないのだろうかと、関係ないことを思ってしまう。
顔と名前しか知らない程度の、友人ですらない男のことを、私はどうしてここまで気にしてしまうのかと、思ったけれど、暑くてそれ以上の思考を遮断した。