空蝉
部屋に上がるカイジに、ちひろは口を尖らせ、



「来るなら来るで、連絡くらいちょうだいよ。私、もう寝るところだったのよ」

「悪ぃ。考え事してたんだ」


カイジは当たり前のようにちひろの家の冷蔵庫を開け、ビールの缶を取り出した。

プルタブを開け、それを喉の奥まで一気に流し込む。


疲れた体に沁み過ぎてやばい。



「ヨシキくん、戻ってきてるの?」

「あぁ。また今日もぶっ倒れるまで飲んでたよ、あいつ」


けれど、ちひろはそれには答えず、



「カイジくんは、ヨシキくんが戻ってきた時にしか私のところに来ないわよね。私はただの、宿代わり?」


ぼそりと自嘲気味に言った。




そんなことはない。

お前に会いたいから来てるんだよ。


と、言おうと思ったけれど、実際には、ヨシキがどうのと理由をつけなければ、ちひろに会いに来ない自分。



何も言えなかったカイジは、聞こえないフリでしか流せなかった。




「俺ちょっと風呂入ってくるわ」


ビールの缶を置き、カイジは逃げるように風呂場に入った。



熱いシャワーを頭から浴びる。


どんなに酒を飲んでも決して酔えない。

俺もヨシキみたいに、飲んで意識を失えたら、少しはマシなのだろうかと、くだらないことを思った。

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