空蝉


軽く頭を乾かし、風呂場を出たら、すでにリビングの電気は消されていた。

ちひろは寝室のベッドの中。


すでに深夜1時を過ぎている。


ちひろは普通の会社員なので、早く寝たいのは当然だろうし、むしろ寝るには遅いくらいの時間だ。

が、それでもカイジは、夢うつつのちひろの体に乗った。



「起きろよ、ちひろ」


ちひろは眠そうに「んー」とうなる。



ちひろが苦しむ顔が見たい。

どうしてこんなに残酷な気持ちになるのかわからない。


それでもカイジは衝動を抑えられなかった。




また眠ろうとするちひろに無理やりキスをしながら、パジャマのボタンを外していく。




行為を進めていくうちに、ちひろの息が荒くなる。


ちひろの顔が歪み始め、嬌声が聞かれた。

カイジの息も荒くなる。



けれど、ひどく安堵している自分にも気付く。



ちひろが俺の代わりに苦しんでくれているみたいで。

泣けない俺の代わりに泣いてくれているみたいで。


頬を伝う一筋の涙をぺろりと舐め、カイジはちひろの奥深くに身を沈めた。





言葉にできないものを吐き出したかった。

大丈夫だよと、受け止め、受け入れてほしかった。


それができるのは、きっとこの世でちひろだけだろうと、カイジは思う。

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