空蝉
2
ちひろはどうして俺との関係を終わらせようとしないのだろう。
そうすることすら面倒だとでも思っているのか?
時々、ちひろの携帯に男からの電話が掛かってきたり、繁華街で男と歩いているちひろを見掛けたりもしたが、カイジはそのことを問いただしたりはしなかった。
何もしてやれない俺といるより、どこぞの安定したサラリーマンと一緒にいた方が、ちひろにとっては幸せなのだろうなと思うから。
そう思うのに、カイジはちひろを手放してやることすらできないまま、結局、曖昧に関係は続いている。
9月最初の土曜日。
カイジはクラブで、自分が手掛けたイベントの成功を見届け、ほっと安堵の息をついた。
何に悩んでいようとも、今のカイジには仕事以上に優先させなければならないものはないから。
隅の壁に寄り掛かり、重低音を感じながら煙草を咥えた時、
「こんなに盛り上がってんのに、シケた顔してんなっつーの」
振り向いたら、こちらにライターの火をかざしている翔が。
カイジはその火で、自らの咥えている煙草に火をつけた。
翔はいつも、カイジのために、イベントを開催するとなると、進んで客寄せになってくれる。
実際、翔を目当てに集まる女も多いのだ。
悪いことをさせているなという自覚はあるが、翔はそれをどうとも思っていないらしく、「疲れてんじゃねぇのか?」と、逆にカイジを心配するようなことを言ってくれる。
腹が立つけど、憎めないやつなのだ。
「最近、あんま眠れねぇの」
「マジか。まぁ、お前はきっちりしたがりだからな。今日のイベントも成功したことだし、今晩くらいは何も考えずに過ごせよ」
誰の所為で悩みが増えてると思ってんだよ。
とは、協力させている手前、言えやしない。
カイジは「わかってるよ」とだけ返した。