空蝉
本来なら、翔が自らの意思で、少しでも更正しようと思ったなら、それを素直に喜び、応援してやるのが正しいのだとは思う。
しかし、今回のことは、無理だ。
その女がどこの馬の骨だかは知らないが、どんなにいい女だとしても、カイジは認められるわけもなかった。
「結局、カイジくんはどうしたいの? どうなれば満足なの?」
きょとん顔のちひろ。
カイジはイラ立ちついでに舌打ちするが、
「私はいいと思うけどなぁ。本人もそう言ってるんだし、私なら翔くんのこと応援するけど」
「は? お前は今の話のどこをどう聞いたらそうなるんだ?」
「翔くんだって自分のことくらい、ちゃんと考えてると思うよ。それに、本気じゃなきゃ、あの翔くんが女の子たちと遊ぶのをやめるとまで言わないだろうし」
どうして俺の杞憂をわかってくれない?
翔がぶっ壊れてからじゃ、遅ぇんだよ。
カイジはいよいよちひろと話すのも面倒になり、「もういい」とだけ返した。
頭が痛い。
胃も痛い。
「ねぇ、カイジくん」
「ちょっと黙って」
冷たい目で睨むカイジ。
ちひろはびくりと肩を上げる。
カイジはそのままちひろをフローリングに押し倒した。
「やっ、ちょっ」
何もかもに腹が立つ。
どいつもこいつも好き勝手で、俺の苦悩なんて考えもしやがらない。
翔の妹が死んだことで一番迷惑してんのは、俺なんだよ。