空蝉
生きるとか死ぬとか、命とか愛とか。

カイジは発狂しそうだった。



「嫌だ! やめて! カイジくん!」


暴れまわるちひろを押さえ付ける。



真理が死んで一番迷惑してんのはカイジでも、一番被害をこうむってるのはちひろだろう。

けど、止まらなかった。


一時の感情に身を任せてちひろを抱くことがどんなに愚かであろうとも、カイジはもう、そこにしか自分を救ってくれるものを見つけられなかったから。




最低だってことくらい、わかってはいるけれど。




行為を終えた後、残ったのは、気だるさと虚しさだけだった。


ちひろは嗚咽を押し殺し、泣きじゃくっていた。

罪悪感はあったが、カイジは何も言うことができなかった。



「私、もうやだよ」


ちひろは泣きながら言う。



「もうこんなのやだよ。辛いよ。苦しいよ」


ごめんなと、どうして言えないのだろう。

気付けばカイジは、「俺もだよ」と言っていた。


ちひろの嗚咽は、いっそう、大きくなった。



「別れる」


声を絞るように、ちひろは、



「別れたい。出て行って」


顔を覆って、涙ながらに、でもはっきりと言った。


カイジはシャツを羽織り、黙ってちひろの部屋を出た。

悲しみとはまた別に、どこか楽にもなった気がした。

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