空蝉
ちひろのためには、これでよかったのだろう。
俺みたいなやつといても幸せにはなれないのだから、他の優しい男のところに行けばいい。
ぐだぐだと続いていたけれど、俺はこの5年半、ちひろに何もしてやれず、傷つけるばかりだったのだから。
「チロちゃんと別れたってほんと?」
どこで聞き付けたのか、事務所までやってきたエミは、
「どうせまたくだらないことで喧嘩でもしたんでしょ? あんたは昔からへそ曲がりで我が強いから、絶対に自分からは謝らないもんねぇ?」
「うるせぇ、ブス。犯すぞ」
だが、エミはちっとも本気にしちゃいない。
おかしそうに肩をすくめ、
「あら、怖い」
と、受け流すように言うだけ。
カイジは小さく舌打ちし、
「今度はマジで別れたんだよ。もう戻る気ねぇし、向こうもそう思ってるだろ」
「どうかしら。少なくともあんたは、未練たらったらな顔に見えるけど」
このブス、マジでうぜぇ。
たかが1年早く生まれた程度で、こんな時だけお姉さん風を吹かすエミ。
「どうしてもっとちゃんと、大事にしてあげないの? あんた、昔はそんなんじゃなかったじゃない。何だかんだ言いながらも、昔のあんたはチロちゃんに優しかった」
「………」
「チロちゃんはあんたが好き勝手にしていい道具じゃない。チロちゃんにだってちゃんと心があって」
「うるせぇっつってんだろ!」
思わず大きな声が出た。
わかってるよ、そんなことくらい。
だからこそ、別れたんだろうが。
「昔、昔、って、いちいちそんなことを持ち出して話すなよ! もうあの頃とは違うだろ! お前だってそうだろうが!」