空蝉
何も言えなくなったのか、エミは顔を逸らした。



「お前は結局、苦しさに耐え兼ねて充さんに逃げただけだろ。そんなやつが偉そうなこと言うなよ。俺とちひろのことに口出してんじゃねぇ」


言ってはいけないことだとは、わかっていた。

けれど、カイジにももう余裕などなかったのだ。


重苦しい沈黙が訪れる。



しばらくの後、口を開いたのはエミの方だった。



「ほんと、どうして死んじゃったのかしらねぇ、真理ちゃん。相談くらい、してくれればよかったのに」


今更そんなことを言ったって、どうにもならねぇだろ。

何も気付かなかった俺たちは同罪で、だからこの4年間、罰のように苦しみ続けているのだから。



「とにかく、俺とちひろは終わったんだ。同情してくれるなら、一発ヤッてくれるか?」


エミは肩をすくめ、「馬鹿な子ね」とだけ。



「できるもんならやってみなさいよ」


確かに、できない。

見透かされているなと思い、カイジは力ない笑みを浮かべた。



「あんたはそんなやつじゃないでしょ」


カイジは昔から翔やヨシキといたため、それなりに女からの誘いもあった。

おまけに今ではイベントを取りまとめる仕事をしているため、ミーハーな女はさらに寄ってくる。


どの女もちひろより派手で、スタイルもよくて、連れて歩くには最高だったのかもしれない。


が、カイジはどうやっても心が動かなかったのだ。

ちひろと別れている期間ですら、自棄になって女とホテルまで行っても、勃たないまま終わる。



カイジはその度に、ちひろでなければダメなのだと思い知らされるのだ。
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