空蝉
真理を失った翔は喧嘩や女に逃げた。
ヨシキは酒だ。
けれど、ちひろと別れたカイジはといえば、そんな風にはなれなかった。
寝る間も惜しんで働き、時には事務所で朝を迎えたりもした。
こんな時代にも拘わらず、ありがたいことに仕事の依頼は増える一方で、たまに他県から電話が掛かってくることもある。
女がどうのと泣きごと言っている場合ではないのだ。
金は文句を言ったり裏切ったりはしない。
金は、命や愛がどうだとは言わない。
だから、人より多く稼ぐことでのみ、カイジは自分を保っていた。
時々、無性にちひろに会いたいと思う時があった。
会って、顔だけでも見たい、と。
でもきっともう、あいつは他の男と幸せになっているはずだと、思うと連絡すらできなくて。
カイジはあれから、ちひろとだけではなく、誰とも連絡を取らなくなった。
初めのうちはエミから電話が掛かってきていたが、それも無視しているうちに、なくなってしまった。
けれど、これでいいのだと思っておく。
都合のいい時だけ頼られたくないし、何より今は仕事で手一杯だ。
何かに悩んでいる時間すら無駄にしたくはなかったから。
俺だって前に進みたいんだよ。
過去でしか繋がれない関係なら、いっそ、断ち切ってしまった方がいい。
それが俺たちのためであり、自分のためでもあるのだから。
何度もそう思いながら、カイジは必死で心を押し殺した。