空蝉
3
10月になった。
繁忙期を過ぎ、どうにか仕事がひと段落したので、その日、カイジは本当に久しぶりに休みを取った。
しかし、仕事以外に趣味も興味もないため、休日の過ごし方がわからない。
朝から家の掃除や溜まっていた洗濯物を片付け、昼は必要なものを買いに出て、そうこうしているうちに夜を迎えてしまった。
我ながら寂しいものだなと、カイジは自嘲する。
晩飯ついでに居酒屋でひとり食事をした後、無意味に繁華街を歩いた。
が、後輩たちから声を掛けられるのがうざったくて、結局、立ち話もそこそこに、逃げるように自宅へと足を向けた。
大きな交差点はなかなか信号が変わらないため、いつも歩道橋の階段をのぼる。
カイジはそこでふと足を止め、歩道橋の下を流れる車列に目をやった。
ライトやテールランプが蛇のようだ。
ぼうっとそれを眺めているうちに、何かの糸が切れてしまったのかもしれない。
どうして俺はこんなにあくせく働いているんだろう。
何の楽しみもないまま、いくら金を手にしたところで、ひとりっきりじゃないか。
無性に虚しさとやるせなさに襲われて。
無意識に、脳裏をよぎった過去。
翔と、ヨシキと、馬鹿ばっかやりながら、無邪気に笑っていた頃のこと。
中学1年だった。
翔とヨシキは入学当初からいつもふたり一緒で、おまけにその見た目も手伝い、とにかく有名だった。
正直、カイジはうざいとも思っていた。
しかし、思えばそれは、ふたりがカイジにとって、眩しすぎる存在だったからなのかもしれない。