空蝉
「してねぇよ」

「してるよ」


押し問答。


何なんだ、こいつは。

カイジはいよいよ腹が立ってきた。



「たとえ俺が泣いてたとしても、馬の骨には関係ねぇだろ。余計なお世話って言葉、知らねぇのか」

「はぁ?」

「大体、俺は泣かない人間なんだ。涙なんてとっくの昔に涸れてんだよ」


吐き捨てるように言ってやった。



「何、この人。すっごい強情なんだけど。っていうか、『馬の骨』って私のこと?」


呆れた顔をする女。

翔は肩をすくめて見せ、



「この前、同窓会のことでチロに電話した時、様子が変だとは思ってたけど。まさか別れてたとはなぁ」


だからって、翔は理由など聞いては来ない。

翔は煙草を咥え、煙を闇空に向かって吐き出しながら、



「それでこんな風になってりゃあ、世話ねぇよ。ほんと馬鹿。人のこと言えねぇっつーか」

「………」

「カイジはさぁ、人のことばっか気にしすぎて、自分のことをダメにしちゃう典型だもんな」

「誰の所為だよ」


思わず反論してしまう。

睨むカイジだが、翔はそれには取り合わず、



「別にお前らの問題に首突っ込むつもりはねぇけど、チロ、電話で『最近ずっと調子悪い』って言ってたぞ」

「え?」


何だよ、それ。

あいつ実は体弱いのに、何やってんだよ。
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