空蝉
「お前らは、どうせいつも別れられねぇんだから、お互い、意地張る必要ねぇと思うんだけどなぁ、俺は」

「………」

「喧嘩でもしたんなら、サクッと謝ればいいだろ。二度と会えなくなって取り返しがつかないことになるよりは、その方がずっといい」


どうして俺なんかの心配をしてくれるんだよ。

俺はお前に、さんざん、ひどいことを言ったのに。



「馬鹿言うなよ。俺が今さらどうしようと、どうせもうちひろは新しい男といるだろ」

「はぁ?」


眉間に深いシワを作った翔は、



「それマジで言ってるなら、お前の方こそ『馬鹿言うな』だよ。チロはそんなやつじゃねぇ」

「……え?」

「カイジがチロじゃなきゃダメなのと一緒で、チロだってカイジじゃなきゃダメだろ。そう簡単に頭を切り替えられるなら、何度もヨリ戻したりしねぇよ」

「………」

「そりゃあ、チロだって今はもう社会人だから多少の付き合いはあるだろうけど、お前がそれを信じてやんないでどうすんの。チロ、多分カイジのこと待ってると思うけど」


ちひろが、俺を待ってる?

傷つけることしかできない、俺を?


けれど、それ以上に、カイジの方がちひろに会いたかった。


限界だというのは、もうっとくに気付いていたから。

カイジは、よろよろと立ち上がった。



「負けるよ、お前には」


力ない笑みを浮かべるカイジに、翔は無邪気な子供みたいな顔で笑った。

翔はその顔のまま、隣の女の肩を引く。



「俺も、お前にどう言われても、アユとは別れねぇから」


よくそんなクサい台詞を、さらりと言えたものだ。

カイジは呆れ半分だった。


しかし、女は眉根を寄せ、
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