空蝉
突き倒されてそのままに、康介はアユの上に乗る。


押さえ付けられ、無理やり指を入れられて、苦痛に顔が歪んでしまう。

痛みを感じながら、私は結局、康介の性欲処理の道具でしかないのだろうなと、アユは悲しむでもなくいつも思う。





ふたつ年上の康介とは、付き合って1年ちょっとになる。

最初は優しかった康介も、だんだんと本性を現すようになった。


一言で言えば、典型的な遊び人のダメ男。


浮気なんて日常茶飯事で、ろくに働かないくせに、金が入ればすぐにギャンブルにつぎ込んでしまう。

その上、酒癖も悪く、気に入らないことがあればすぐに暴れるのだ。



「別れたい」と、アユは何度か言ったことがある。



けれど、その度に、殴られ、無理やり行為を強いられる。

痛い思いをするだけで、結局は何も変わらないのだから、アユはいつしか諦めの方が大きくなっていった。


別れることさえできないなら、怒らせないためにも、大人しく康介の言うことを聞いている方がいい。


愛しているなどという感情は、もうない。

今では、この人の何を見て好きになったのかと、あの頃の自分に問いたいくらいだ。





己の欲望のためにのみ腰を振って快楽を得た康介は、煙草を1本吸った後、そのまま眠りに落ちた。



午後5時半。

バイトは6時からだから、急がなければ遅刻してしまう。


アユは康介を起こさないように、静かに、でも手早く服を着て、逃げるように部屋を出た。




繰り返すだけの毎日には、光の希望もありはしない。

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