空蝉
「勝手なこと言わないで!」


叫んで、ちひろは涙を浮かべた。

ちひろは肩で息をしながら、



「カイジくんはいつも勝手だよ! 私ばっかりカイジくんのことが好きで、一方通行で! それなのに、まだ我慢しろって言うの?!」

「………」

「大体、カイジくんは私じゃなくてもいいでしょ! 他に女の子いっぱいいるくせに! なのに、どうして私といるのよ!」


物が飛んできそうな勢いだった。

カイジはたしなめるように、そんなちひろを制す。



「落ち着けよ、お前」


唇を噛み締めたちひろは服の袖で涙を拭う。



「俺が浮気してるみたいな口ぶりだなぁ、おい」

「してるくせに」

「してねぇよ。いつした? どこでした? 誰とした?」


詰め寄るカイジ。

ちひろは噛み締めた唇をわなわなと震わせながら、



「昔からいつも女の子たちに囲まれてたでしょ。今だって女の子から電話掛かってきたりしてるじゃない」


『昔からいつも女の子たちに囲まれてた』のは、翔やヨシキであって、俺じゃない。

今掛かってくる電話は、仕事関係だけだ。


そんなくだらないことでちひろは心を痛めていたのかと思ったら、笑えてきたのと同時に、愛しさも増した。



「嫉妬かよ」

「な、何がおかしいのよ!」

「別に。お前ほんと俺のこと好きなんだなぁ、と思って」


みるみるうちに、ちひろの顔が羞恥で赤くなっていく。



「俺は、好きな女としか――ちひろとしかヤラねぇし、ヤッたことねぇよ」

「えっ」

「誰かもわかんねぇやつとなんて気持ち悪ぃし、大体、俺そんな暇じゃねぇもん」
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