空蝉
戸惑う顔になったちひろ。

それでも、ちひろは、



「そうだとしても、私はもうカイジくんとヨリを戻すつもりはないから」


かたくなに言う。



強情なやつ。

どうしたものかなと思った。


困りあぐねたカイジは、ひとまず落ち着こうと、煙草を取り出し、火をつける。



「何が気に入らない? 俺に対して言いたいことがあるなら、言っちまえよ」


煙を吐き出した瞬間。


「うっ」と口元を押さえたちひろは、慌てたようにトイレに駆け込む。

驚いたカイジも煙草を消して、ちひろの後を追った。



「おい、大丈夫か?」


おえおえと嘔吐するちひろ。

生理的な涙を浮かべながら、苦しそうにあえぐちひろの背中をさすってやる。



「そんなに調子悪かったのかよ。立てるか? いつもの病院だろ? 連れてってやるから」

「嫌ぁ」

「嫌じゃねぇよ。じゃあ、どうすんだよ」


ちひろの体が少し熱い。

熱もあるのかもしれない。


最近、急に冷え込むようになってきたしなと、思ったカイジは、



「とにかく、そこにいても余計、冷えるし」


しかし、気力がないのか、ちひろは立とうとする素振りさえ見せず、逆に壁にしな垂れかかる。

これにはさすがのカイジもなす術を失った。
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