空蝉
「どうして俺に何も言わなかった?」

「カイジくんには関係ない。私の問題だもん」

「俺らの問題だろうが!」


つい大きな声が出た。

ちひろはびくりとするが、それでもカイジは怒りが治まらなくて。



「俺の子だろ! それなのにどうして自分だけで決めるんだよ! 関係なくねぇだろ!」


ちひろはまた泣き出した。



「だって、カイジくんの迷惑になるじゃない。こんなの困るでしょ?」

「ちひろ……」

「私が、私ひとりで生むって決めたんだもん。だから、自分でどうにかするの」


馬鹿じゃないのか、こいつは。

カイジは呆れが先に立った。



「『どうにか』って、どうするつもりだよ。金は? これからの生活は? ひとりで子供育てるのがどんなに大変か、わかんねぇのかよ」

「そうだとしても、カイジくんには頼らないから!」


ちひろは泣きじゃくる。

カイジは宙を仰いで息を吐いた。



「結婚するぞ」

「……え?」

「俺とお前の子供ができたんだろ? なら、結婚すればいいじゃねぇか」

「義務みたいに思われたくない」

「お前なぁ」


強情もここまでくれば、腹も立ってくる。

それでもカイジはなるべく冷静に、



「俺は、ずっとお前と結婚するつもりでいたよ。だから死ぬ気で仕事してたんだ。早く金貯めたかったから」


ちひろは目を丸くした。
< 75 / 227 >

この作品をシェア

pagetop