空蝉


バイトを終えて、携帯を見たら、康介からの、ものすごい数の着信が。

その所為で、今更ながらに頬の痛みを思い出した。


康介は、どうして別れてくれないのだろう。


別に私じゃなくてもいいくせに。

愛してすらいないくせに、なのにどうして。



とぼとぼと繁華街を歩いていたら、ドンッ、と誰かにぶつかった。



「いってぇなぁ、おい」

「前見て歩けや」


顔を上げたら、いかつい数人の男たちが。

けれど、その中のひとりに、



「やめろ。お前ら、女に絡んでんじゃねぇよ」


翔がいたから驚いた。

翔は男たちに、顎で先に行くようにと促す。



「何すか? 翔さんの知り合いっすか?」

「教えてくださいよぉ。カイジさんとか充さんには内緒にしときますからぁ」


にやつく男たちに、翔は「黙れ」と低くすごんだ。

さすがにやばいというような顔をした男たちは、取り繕うように「先に行ってますね」と、早口に言い、逃げるように去っていく。


翔の目が、アユへと向けられた。



「大丈夫か?」


あんたどうして私を助けたの?

今日はいつものように女の子を連れてないの?


この場にそぐわない、どうでもいいことが頭をよぎる。
< 8 / 227 >

この作品をシェア

pagetop