空蝉
バイトを終えて、携帯を見たら、康介からの、ものすごい数の着信が。
その所為で、今更ながらに頬の痛みを思い出した。
康介は、どうして別れてくれないのだろう。
別に私じゃなくてもいいくせに。
愛してすらいないくせに、なのにどうして。
とぼとぼと繁華街を歩いていたら、ドンッ、と誰かにぶつかった。
「いってぇなぁ、おい」
「前見て歩けや」
顔を上げたら、いかつい数人の男たちが。
けれど、その中のひとりに、
「やめろ。お前ら、女に絡んでんじゃねぇよ」
翔がいたから驚いた。
翔は男たちに、顎で先に行くようにと促す。
「何すか? 翔さんの知り合いっすか?」
「教えてくださいよぉ。カイジさんとか充さんには内緒にしときますからぁ」
にやつく男たちに、翔は「黙れ」と低くすごんだ。
さすがにやばいというような顔をした男たちは、取り繕うように「先に行ってますね」と、早口に言い、逃げるように去っていく。
翔の目が、アユへと向けられた。
「大丈夫か?」
あんたどうして私を助けたの?
今日はいつものように女の子を連れてないの?
この場にそぐわない、どうでもいいことが頭をよぎる。